「来期の販促企画を三つ出して」と打ち込めば、生成AIは待たせずに整った案を並べてくれる。読めばどれも筋が通っていて、反論しづらい。気づけば、三つのうちどれを選ぶかだけが自分の仕事になっている。便利さそのものは歓迎していい。ただ、速く答えが出るほど、どこまでが自分の判断だったのかが見えにくくなる。この記事で考えたいのは、AIを減らす話ではなく、自分の判断を意識して残す置き場所の話だ。
社内の利用ルールに従うことを前提に、案を広げる、言い換える、抜けを洗い出す、といった作業はAIに補助を頼む候補になる。一方で「何のためにやるのか(目的)」「何を良しとして比べるのか(比較基準)」「最終的にどれを採るか(採用判断)」の三つは、手元に残しておきたい。この三つは、後から説明を求められたときに、自分や関係者で確かめておきたい部分だからである。
参考になる調査がある。2025年のCHIで発表された、知識労働者319人への自己申告調査では、AIへの信頼の高さと批判的思考の関与のしかたに関連がみられた、と報告されている。参考資料:Microsoft Research・CHI 2025の調査
ここで押さえておきたいのは、これが因果関係を確かめた実験ではなく、能力が落ちることを証明したものでもない、という点だ。自己申告の回答に関連が見えた、というところまでが資料の範囲になる。だから「AIを使うと考えなくなる」とは言えない。言えるのは、関与のしかたが変わりうるので、自分がどこで判断しているかを自覚しておく価値はある、という程度のことだ。
一つ目。社内向けの研修企画を考えるとする。AIに頼むと、オンライン型・集合型・録画配信型の三案が返ってきた。ここで「参加率が高い案を選ぶ」と無意識に決めてしまうと、本来の目的が「参加率」にすり替わる。目的が「現場で使える手順を覚えてもらうこと」なら、比較基準は参加率ではなく、受講後に手順を再現できるかどうかになる。基準が変われば、選ぶ案も変わる。
二つ目。個人で副業の方向性を三つに絞る場面。AIは市場性・収益性・将来性といった基準で整理してくれるだろう。けれど、本人が実際に重く見ているのは「平日の夜に続けられるか」かもしれない。AIが提示した基準をそのまま使うと、納得感のないまま選ぶことになりやすい。基準を自分の言葉に書き換える手間が、採用判断の支えになる。
実際にやってみるなら、こんな小さい形から始められる。AIに相談する前に、紙でもメモアプリでもいいので、目的を一行、比較基準を二つか三つだけ書いておく。相談したあとで、返ってきた案を自分の基準に当てはめ直す。最後に「なぜこれを採ったか」を一行で残す。ここまでで数分だ。この一行が溜まっていくと、自分がどんな基準を繰り返し使っているかが見えてくる。社外に出せない情報を入力せず、所属先の利用ルールに従い、公開可能な情報を使った一般的な検討から試してほしい。
基準を先に書いても、書いた基準自体が偏っていることはある。急いでいる日には、この手順そのものが飛ぶ。紹介した調査も自己申告であり、個人に当てはまるとは限らない。効果を保証するような話ではなく、判断の置き場所を決めておくと振り返りやすい、という範囲の提案として受け取ってほしい。
Q. AIに任せる範囲を減らしたほうがいいのですか。そうは考えていない。減らす話ではなく、目的・基準・採用判断を自分の側に置いたうえで、案出しなどの補助を頼み、返された内容を確認して使うという整理だ。
Q. 基準は毎回書く必要がありますか。必要はない。影響が大きい判断や、後で誰かに説明する可能性がある判断に限って書く、という使い分けで十分だと思う。
Q. 自分の基準がそもそも分からないときは。過去に採用した判断を三つ並べて、共通点を探すのが手早い。自分で言語化しにくい場合は、外部の枠組みを振り返りの材料にする手もある。
当社が提供している脳命算も、その材料のひとつだ。算命学の命式と、質問への回答から導く脳タイプを組み合わせ、自己理解のきっかけとして使う枠組みである。算命学は占いに由来するが、ここでは運勢を当てる目的では使わない。科学的・医学的な診断ではなく、能力や適職を確定するものでもない。タイプに優劣もない。
生成AIが出す整った答えを前に、判断したつもりで選んでいないかは確かめたい。だからこそ、目的・比較基準・採用判断の三つだけは手元に残しておきたい。一行のメモで足りる。自分が何を良しとして選んだのかが残っていれば、次に迷ったときの手がかりになる。
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